以下、雪国に適したパネル角度を求める実験のデータと考察です。
当時はコンテナや単管を利用した設備にて実験を行いましたが、現在野立て太陽光発電所はアルミ架台で施工を実施しております。
1.実験の目的
「ソーラーコンテナ」は会津太陽光発電株式会社が立案・設置した「太陽光発電実証実験設備」です。
野立てでの大規模太陽光発電システムは、一般的にコンクリート基礎による頑健な架台での施工が普及しています。
しかし費用も工期もかさみ、また後に撤去することとなった場合の原状回復も容易ではありません。
本実証実験では、安価で短工期、かつ雪国特有の悩みである風雪害に耐えうる太陽光発電設備を実現することを目的に、発電量のデータ収集や設置条件ごとの強度観察を行っております。
2.設備
◆設置地:福島県喜多方市
(緯度 = 37°39.5′ 経度 = 139°51.8′ 標高= 212m)
◆設備容量:49.3kW
◆稼働開始:2013年9月
架台
・単管パイプ打ち込みによる低コスト・短納期架台
・うち数基に置き基礎として貨物コンテナを使用しており、設備名の由来となっています。
◆システム詳細・配置図
1.パネルの角度
2.パネル間の隙間の有無
3.重りの有無
以上の条件を変えながら9パターンを設置。
9基にパワーコンディショナが1台ずつ付き、1基ごとの発電量の違いが判別できます。
*クリックで拡大します
数字はパワーコンディショナの番号です。
「ソーラーコンテナ」実証実験データ
福島県を始めとする積雪地域で太陽光発電を設置したいと考える方の一番の不安は「雪」に関することだと思います。しかしながら、雪国での太陽光発電に関するデータは今現在ほとんどありません。
太陽光発電の導入を検討されている方が情報を探された場合、得られるのは関東以南の無積雪地域のデータばかりではないでしょうか。情報が少なく、不安に思う点が解消できない状況では、雪国で太陽光発電が普及していくはずはありません。
私どもは雪国に太陽光発電を普及させたいという想いがあります。
「ソーラーコンテナ」で得られたデータを公開することで、太陽光発電を設置したいと考える方々が「積雪地域でも大丈夫」と安心して導入に踏み出して頂けるのなら幸いです。
・データ取得時期は平成25年度の秋~冬期間です。
・画像はすべてクリックで拡大します
落雪の様子
ソーラーコンテナ周囲には4台の監視カメラを設置し、24時間録画しています。
この録画映像を元に、雪国太陽光発電で最も重要な「雪」について観察を行いました。
監視カメラで見られる設備の様子は以下のようになります。
下は4台合わせての画像ですが、カメラ1台ずつをピックアップして見ることもできるため、奥のパネルの積雪の様子なども確認できます。
落雪の様子です。画面左下のカメラ映像をご覧下さい。
動画が始まってすぐと、後半35秒頃にもう一度落ちます。
夜間にまとまった降雪があった場合などに積雪しますが、陽がさす時間帯になると動画のように勢いよく滑り落ちていきます。
弱い雪・軽い雪であれば、ある程度積もってもすぐ融けてしまうか風で飛ばされます。
落雪時刻
昼間に降雪があっても、パネルが太陽の熱で温まっているため積雪することはほとんどありません。積雪が見られるのは日没から早朝まで雪が降り続いた場合です。
では何時頃から落雪が始まり、雪がなくなるまでどれくらいかかるのでしょうか。
監視カメラの映像から、落雪が始まる時刻とパネル上からほぼ雪がなくなる時刻を記録しました。
データ集計期間は1月~2月間でパネル上にはっきりと積雪が見られた17日間です。
表にまとめたものがこちらです。
上記データをガントチャート形式でまとめ、途中経過の画像を添えたPDFファイルです。
雪国に適したパネル角度の考察
積雪の影響を考慮したパネルの理想的な設置角度について、観察結果とデータを元にまとめました。
1.結論
●30°設備と45°設備を観察した結果、30°は45°に比べ落雪完了が1時間遅遅い。加えて冬期間は45°の方が日射量が多く発電に優位である。
●しかし春~秋期間は30°における日射量の方が45°を上回り、結果的に通年では30°設備のほうが1.3%発電量が多くなる。
詳細・計算方法等は以下をご覧ください。
2. データ詳細
なぜ30°と45°を比較するのか
今回の実証には北海道電気保安協会様のホームページにありました「克雪型太陽光発電システムの実証試験結果」を参考にさせていただきました。
北海道電気保安協会様が先進的なデータを公開されていることに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
今回は、この中で落雪効果が高いとされている45°を中心に、冬期の気温も降雪量も北海道とは異なる喜多方の場合はどうなのか?を観察することと致しました。
また、日射角度の点で全国的に太陽光発電システムに適した角度とされている30°と比較することと致しました。
45°設備の落雪完了時刻の平均は10時15分、30°設備の平均は11時7分と、その差はおよそ1時間です。
つまり冬期間、30°設備は45°設備と比べ、10時から11時までの1時間分、発電量の損失があると見ることができます。
積雪の影響がない地域であれば、NEDOから得られた年間平均日射量をそのまま用いて30°設備と45°設備を比較して差し支えありません。しかし雪国では、積雪により発電できない時間の影響を考えるべきです。
2-1. 計算条件
●月間日射量
日射量は、単位面積が単位時間に太陽から受ける放射エネルギーの量で測定されます。
NEDO「年時間別日射量データベース METPV-11」より、喜多方の時間別日射量を取得しました。それに基づく月間日射量は以下のとおりです。
(一ヶ月間の、日の出から日没までの全ての時間の日射量の合計です)
– | 30° | 45° |
---|---|---|
12月 | 61.38 kWh/m² | 66.30278 kWh/m² |
1月 | 82.436 kWh/m² | 89.61667 kWh/m² |
2月 | 101.54 kWh/m² | 108.3556 kWh/m² |
●積雪による損失分
30°、45°いずれも、積雪があった日はパネル上の雪がなくなるまでの間は発電が出来ないため、日の出から雪がなくなるまでの間の日射量はないものとみなします。
雪がなくなるおおよその時刻は上の表にまとめたとおりです。
30°設備は雪が残りやすいため、45°に比べると10時から11時までのおよそ1時間分、発電に出遅れると見ることが出来ます。
30°
・12月…日の出~11時の日射量 0.75062724 kWh/m²
・1月…日の出~11時の日射量 0.904749104 kWh/m²
・2月…日の出~11時の日射量 1.306845238 kWh/m²
45°
・12月…日の出~10時の日射量 0.440770609 kWh/m²
・1月…日の出~10時の日射量 0.533781362 kWh/m²
・2月…日の出~10時の日射量 0.857242064 kWh/m²
●降雪日数
県のデータによると喜多方の年間雪日数は70日となっています。
今年、弊社の観測で実際にパネルの上に積雪を確認できたのは17日間でしたが、70日間で計算いたします。
雪が降る12月、1月、2月の3ヶ月に対し、12月は20日、1月は30日、2月は20日と、70日を割り振りました。
2-2. 計算方法
積雪の影響を差し引いた月間日射量を求める計算式は次のようになります。
月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
30°・12月
■12月の月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
61.38kWh/m² ― 0.75062724kWh/m² × 20日
=46.3675 kWh/m²
積雪の影響を考慮した12月の傾斜30°時月間日射量は
46.3675 kWh/m² です。
30°・1月
■1月の月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
82.436kWh/m² ― 0.904749104kWh/m² × 30日
=55.2935 kWh/m²
積雪の影響を考慮した1月の傾斜30°時月間日射量は
55.2935 kWh/m² です。
30°・2月
■2月の月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
101.54kWh/m² ― 1.306845238kWh/m² × 20日
=75.4031 kWh/m²
積雪の影響を考慮した2月の傾斜30°時月間日射量は
75.4031 kWh/m² です。
3ヶ月を合わせると 177.0641 kWh/m² となり、これが傾斜30°時の12月~2月の合計日射量です。
45°・12月
■12月の月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
66.30278kWh/m² ― 0.440770609kWh/m² × 20日
=57.4874 kWh/m²
積雪の影響を考慮した12月の傾斜45°時月間日射量は
57.4874 kWh/m² です。
45°・1月
■1月の月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
89.61667kWh/m² ― 0.533781362kWh/m² × 30日
=73.6032 kWh/m²
積雪の影響を考慮した1月の傾斜45°時月間日射量は
73.6032 kWh/m² です。
45°・2月
■2月の月間日射量(A)-(積雪による1日の損失分× 降雪日数)(B)
= 積雪の影響を考慮した月間日射量(C)
108.3556kWh/m² ― 0.857242064kWh/m² × 20日
=91.2108 kWh/m²
積雪の影響を考慮した2月の傾斜45°時月間日射量は
91.2108 kWh/m² です。
3ヶ月を合わせると 222.3014 kWh/m² となり、これが傾斜45°時の12月~2月の合計日射量です。
積雪の影響を考慮した30°と45°の日射量比較
上記で求めた30°の日射量と45°の日射量とを比較します。
●30°時の12月~2月の合計日射量 177.0641 kWh/m²
◇45°時の12月~2月の合計日射量 222.3014 kWh/m²
冬期間だけをみれば、45°の方が得られる日射量が多いことがわかります。
しかし、METPV-11によると
●30°時の3月~11月の合計日射量 1104.9 kWh/m²
◇45°時の3月~11月の合計日射量 1043.03 kWh/m²
春~秋期間は30°の方が45°を上回ります。
これは喜多方市における年間を通した太陽光発電の「最適傾斜角」が27.7°であり、30°の方が最適傾斜角に近いためです。
冬期間と、春~秋期間を合計すると以下のとおりです。
●30°
冬季 177.0641 + 春~秋季 1104.9 = 1,281.9641 kWh/m²
◇45°
冬季 222.3014 + 春~秋季 1043.03 = 1,265.3314 kWh/m²
よって30°と45°の年間日射量の差 = 16.6327 kWh/m² となり、通年で見れば30°の方が約1.3%優位性が高いことがわかります。
差を売電額で表すと?
45°設備と比べ30°設備の方が年間日射量が1.3%高いということを具体的に売電額で表します。
例えば50kWの設備の場合、45°で設置した場合の年間発電量は
◇45°
年間予想発電量(kWh/年)=
設置面の年間日射量(kWh/m²)× システム容量(kW)
÷1(標準状態における日射強度 kWh/m²)
1,265.3314 × 50 ÷ 1 = 63,266.57(kWh/年)
次いで30°で設置した場合の年間発電量は
●30°
年間予想発電量(kWh/年)=
設置面の年間日射量(kWh/m²)× システム容量(kW)
÷1(標準状態における日射強度 kWh/m²)
1,281.9641 × 50 ÷ 1 = 64,098.205(kWh/年)
となり、年間で831.635kWhの差となります。
これを売電金額に置き換えます。
2014年度の再生可能エネルギー固定価格買取制度で10kW以上の設備は32円/kWhでの買い取りになります。
831kWh(kWh/年)× 32円 = 26,592円
1年間では大きな額ではないかもしれませんが、これが10年、20年と重なります。
さらにこれが1MWの設備であれば年間531,840円となり、10年で5,318,400円、20年で10,636,800円もの違いとなります。
同じ設備であっても、角度の違いだけでこれだけの差が出てきます。
雪の影響を考えると、パネルにはなるべく傾斜を付けたいと考えてしまいますが、年間を通して見ることが必要です。
2013年9月~2014年2月発電量詳細
2013年9月~2014年2月の各設備ごとの発電量詳細はこちらのPDFをご覧ください。
上記データのExcelファイルです。クリックでダウンロード出来ます。
パスワードがかかっておりますので編集はできません。
※2月の途中から0°設備の発電量が急激に上がっておりますが、雪の重みで単管が曲がり始めたので雪下ろしをしたためです。0度のパネルはずっと雪が載ったままで、冬の間は発電量がほぼない日が続いておりました。
これが陸屋根への設置であれば、建物が頑丈ですから雪の重みも問題ありませんし、角度が浅いほど夏場は発電に有利です。ですが積雪を考えますと、野立ての場合で0度は難しいことがわかりました。
ページ公開…2014年3月